この国は、くま島とうさぎ島という、ふたつの島からできています。
くま島はくまのかたちの、うさぎ島はうさぎのかたちの地形をしています。
うさぎ島にはしっぽ島という、うさぎのまるいしっぽのかたちの地形のちいさなちいさな島があります。
くま島とうさぎ島はとてもなかよしで、いつもいっしょにうみというゆりかごにゆられています。
ゆりかごのうみの中で、群れと群れが行き交います。
銀色のいわしの群れと、あじの群れです。
透明のうみの中で、うろこがしずかにひかります。
この国の国王のこころを、あらわにしているのです。
群れの中の、いわしが一匹はねました。
みどりの木々でいっぱいの、くま島とうさぎ島のあいだです。
空には、コウノトリが一羽飛んでいます。誰かの家に帰る途中なのです。
大きなどんぐりの木にとまっているのは、はやぶさです。
はやぶさの目に映っているのは、アンテロープの仲間の群れです。
その中の、一頭のトムソンガゼルの母親をみています。ちいさな仔とはなをくっつけてあそんでいます。
じぶんとはちがう速さに、あこがれているのです。
この国では、このはやぶさは、えものをとらえるためではなく、ただ速さを感じるために、時速300キロの速度を超えます。
トムソンガゼルの母親は、まだちいさな仔とはなをくっつけてあそんでいます。
母親と仔のむねに、サバンナという場所の記憶が、星のようにひかります。
はやぶさは、ゆっくり飛んできて、母親の背中のうえにのりました。
母親も仔も、とってもうれしそうにしました。
うさぎ島の、みずうみのそばで、雄のタンチョウヅルが雌のマナヅルに、求愛の舞を踊っています。
つばさの骨がしなやかに伸びます。
雌のマナヅルも、雄のタンチョウヅルとおなじようの、つばさの骨をしなやかに伸ばし、相手のつばさに触れ、長い首を、雄のタンチョウヅルの長い首にまわします。
その様が、かがやきにかれた目に映るように、みずうみの水面に映ります。
梅の木のうえにとまっているのは、つばめとウグイスです。
つばめとウグイスは親友でした。おとぎ話の中で生きた二羽は、この国で言葉を交わします。
つばめは、おはなしの中で生きた記憶を、永遠に持とうときめました。
野性のからだと、絵本の色彩がまざり、このつばめの立体の感かくは、普通ではありません。
そのからだを見るものの色覚を、彩やかに発達させます。
ウグイスは、うたうのをすきな者の中に宿ることができました。永遠に鳴いていたいのです。
まるでその者の、声そのもののような鳥です。うすいみどりの、鳥のようなのどです。
桃色より朱く染まった羽根を広げているのは、トキです。
この島国を染める夕焼けよりも強くあかいトキの顔は、ちいさなすずめの方を向いています。
すずめのからだのいろは、木の色や土の色や枯れ葉の色に、とてもよく似ています。
夕焼けより永い時間を感じさせるトキの羽根は、最後にはふっくらしたすずめのからだを包みます。
すずめの大きな目には、強い色のコントテストのからだが映ります。
保護色への強いあこがれを、全身で受けます。
はなづら山の空高く飛んでいるのは、オジロワシです。
このオジロワシは、空をむねに寄せて抱きしめることのないかわりに飛ぶのです。
あおく澄みきった空のむねとなったオジロワシは、尾の白い扇で風を空に仰ぎました。
くま島の、ちょうどまん中あたりにある、はなづら山に、この国の国王が暮らす、ちいさな小屋があるのです。